【開催報告】第10回 量子固体Flagshipセミナー

2025年4月8日、OIST(Okinawa Institute of Science and Technology)のBill Munro教授をお招きして、第10回量子固体Flagshipセミナーを開催しました。

Muro教授は、量子技術の分野におけるハイブリッドシステム、特に超伝導量子ビットとNVセンタの組み合わせについて、15年にわたる研究成果を発表しました。

まず、ハイブリッドシステムを研究する動機として、単一の量子システムでは実現できない高度な機能や、長距離量子通信の実現を挙げました。超伝導量子ビットはマイクロ波領域で優れていますが、光とのインターフェースが難しく、長距離伝送にも課題があります。一方、NVセンタはマイクロ波領域と光領域の両方で優れた特性を持ち、両者のインターフェースとして有望です。

講演では、NTTとの共同研究で開発したチューニング可能なフラックス量子ビットとNVセンタの組み合わせについて説明いただきました。初期の実験では、両者の強い結合を確認しましたが、コヒーレンス時間(T1、T2)が短く、エンタングルメントの生成も困難でした。これは、NVセンタの不均一な広がりが原因であると考えられました。

次に、この問題を解決するために、スペクトルホールバーニングという技術を導入しました。これにより、NVセンタのコヒーレンス時間を大幅に改善し、マイクロ波周波数コムの生成にも成功しました。

さらに、ハイブリッドシステムにおける非線形効果、特に振幅バイスタビリティと超放射について議論しました。強力なマイクロ波場を印加することで、古典的な振幅バイスタビリティを観測し、アンサンブルNVセンタが非線形現象の観測に適していることを示しました。

また、アンサンブルNVセンタにおける超放射の観測結果について述べられました。超放射は、アンサンブル中のNVセンタが同時に励起状態から基底状態に遷移する現象であり、量子コヒーレンスの証拠となります。実験では、マイクロ波キャビティと光ファイバーを用いて、超放射のシグナルを観測しました。

教授は、これらの研究成果が、量子コンピュータや量子センサなどの開発に貢献することを期待しています。また、ハイブリッドシステムの研究を通じて、量子物理学の新しい領域を開拓したいとの展望を述べられました。 今回の参加者はオンライン・会場を合わせて、80名近くとなり、学生だけでなく、固体量子センサ研究会を通じた産業界からも多くの参加者があり、活発な質疑応答がなされました。講演いただいたB. Munro教授、並びに参加者の皆様に感謝いたします。

講演されるMunro教授
会場の様子