【開催終了】第7回量子固体Flagshipセミナー開催

第7回量子固体Flagshipセミナー が、7月31日(月)14時から東京大学(本郷キャンパス)電気系会議室3をメイン会場とし、ハイブリッドで開催されました。
今回は、東京大学工学計研究科教授 関野正樹先生の司会により、東北大学名誉教授・岩手大学客員教授である八尾寛先生に「感覚情報の光操作 Manipulation of sensory information by light」と題して講演いただきました。
会場、オンライン併せて40名ほど、全国各地からの参加があり、学生、若手研究者を中心として数多くの質問が寄せられ、量子と生命を繋ぐ示唆に富むセミナーとなりました。

講演される八尾先生
司会の関野先生
会場の様子
演題: 感覚情報の光操作
    Manipulation of sensory information by light
概要: 脊椎動物や昆虫など多くの種類の無脊椎動物の脳は、膨大な数のニューロンで構成されている。さらに、それらが互いに結合し、複雑なネットワークを形成している。たとえば、ヒト脳には、1000億個のニューロンがあり、それぞれが数100から1000個のシナプスを受け取っている。このニューロンネットワークをめぐる信号伝達が脳の機能、すなわち心(マインド)を生み出していると考えられる。この大きな謎を解明するにあたり、天然あるいは人工の光情報変換タンパク質を脳の光操作に用いる戦略、すなわちオプトジェネティクス(光遺伝学)が注目されている。たとえば、チャネルロドプシンは、光エネルギーを電気信号に変換する、単一分子の光電変換素子である[1,2]。チャネルロドプシンをある標的ニューロンに遺伝子発現させることにより、標的特異的に膜電位を光操作する方法論が確立された[3-5]。脳の情報は、個々のニューロンの活動電位の発火パターンにコードされているので、光の高い時空間分解能を生かした情報操作が可能になった[6-8]。また、光を用いることにより、脳に対する侵襲を最小限にとどめることができる。マウスやラットの大脳皮質ウィスカ―バレル野は、触覚情報処理の優れたモデルである。このモデルを例に、様々な研究分野におけるオプトジェネティクスの活用について議論する[9]
 
参考文献
[1] Nagel G, et al. Science 296:2395-2398 (2002)
[2] Nagel G, et al. Proc Natl Acad Sci USA 100:13940-13945 (2003)
[3] Ishizuka T, et al. Neurosci Res 54:85-94  (2006) (Epub 2005 Nov 17)
[4] Boyden ES, et al. Nat Neurosci 8:1263-1268 (2005)
[5] 八尾寛,石塚徹. 特願2005-34529 (2005 Feb 2)
[6] Yawo H, et al. Dev Growth Differ 55:474-490 (2013)
[7] 石塚徹,ら.生物物理 55(6):311-316 (2015)
[8] Yawo H, Kandori H, Koizumi A, Kageyama R, eds. “Optogenetics: Light-sensing proteins and their applications in neuroscience and beyond”, Springer (2021)
[9] 阿部健太, 八尾寛. 生物物理59(6):317-319 (2019)